食生活

食生活

先日、地元のラジオ番組に出演したときのことです。

「オーストリアの名物料理」について聞かれ、とっさに答えることができたメニューは「ウィンナーシュニッツェル(子牛のカツレツ)」と「クヌーデル(ジャガイモやパンで作った団子)」くらいで、他にもいろいろ食べてきたはずのメニューをパッと思い出せず、なんだかもどかしい思いをしました。
ただ、正直言って留学中はそれほどグルメになれるはずもなく、みんなと同居していた間も普段はだいたい適当な大鍋料理。外食をするときでも日本人の友人とはお手軽な和定食のランチや近所のピッツェリア、オーストリア人家族とはホイリゲ(地元のワインを飲む居酒屋、食事が充実している所も多い)で簡単に済ませることが多かったです。
とはいえ長い留学期間中には本当にきちんとしたオーストリア料理のフルコースも、地元の家庭に招かれた際などに何度かいただきました。
まずは庶民留学生のありのままの食生活、そしてオーストリア家庭でのおもてなし料理とそれにまつわるエピソードをご紹介します。

自炊生活その1
最初に、昔からよく「ピアニストは料理なんかしないだろう」と言われましたが、決してそんなことはありません。むしろ私の周りでは料理が得意じゃない音楽家はほとんどいないと言えるくらい、みんな上手でした。
毎日マメに作るかどうかは別としても、美味しい物に目がない→食べに行くよりまず作ってしまおう、という人が多かったです。
留学生同士、各自が一品ずつ持ち寄って週に何度も集まるなど、それなりに楽しく学生生活を送っていました。
ウィーンのスーパーでは日本の食材はさすがにあまりありませんが(醤油くらい)、野菜や保存食品など種類はとても多く、食文化は充実しています。立地的に他国に囲まれ移民がたくさんいる国なだけあって、ドイツ料理やハンガリー料理、イタリアにトルコetc… と多国籍のものがあふれています。 自炊でも凝り出すと、いろんな食材が手に入るナッシュマルクト(市場)に買い出しに行く友人もたくさんいました。
写真:ナッシュマルクト。(2014年12月撮影)CIMG3864

CIMG3871自炊生活その2
 そんな留学生活前半を経てのオーストリア人たちとの同居。
最初のうちしばらくは自炊歴の長い私がよく食事をつくっていました。はじめに大鍋料理と書きましたが、まさにその通り。野菜とお肉を切って炒めて煮込むカレーやシチューやスープばかりです。それにパンかごはんと適当なサラダを添えておしまい。簡単で美味しくてみんなお腹いっぱいたべられるので、誰も文句は言いませんでした。
それどころか、日本のカレーやシチューの素がものすごく好評で、ある時お母さんのお客様がシチューを口にして感動し「こんなおいしいものは初めて食べた!レシピをどうか教えて欲しい」と言われたくらいです。恐るべし、日本のインスタント・シチューのルー。
帰国するたびにたくさん買い込んで、ストックしてました。
ちなみに、インスタントラーメンも一部の同居人には好評でした。カルピスや柿の種も好きなヨーロッパ人は多いです。
みんなが嫌がったのは納豆とお味噌。においだけで「何だこれはー?!」と拒絶されました。

オーストリアの家庭料理
ところで私自身は好き嫌いがあまりなく、オーストリア料理をずっと食べ続けても抵抗はありませんでした。実際ペルチャッハのお家に遊びに行けば、何週間も和食は食べられませんが平気です。そこで出されたものをありがたく戴いているうちに、黒パンでもハムでも香辛料でもそれなりにこだわりが出てきて楽しめました。
魚の料理にはフェンネル、肉料理にはマジョラムなどを使うなど、基本的にヨーロッパの家庭はみんなハーブを上手に使っているようです。あまったパンやベーコンは細かくして下味を付け、こねて茶巾に包んで茹で、クヌーデル(団子のような食感)として肉料理の付け合わせになります。
休日の昼食やお客様のおもてなしの際には、前菜・スープ・メイン・デザートをちゃんと作ります。
私がよくいただいたものでは、まず前菜は1/2に切って種を除いたアボカドに赤タマネギのみじん切りを炒めて詰めたもの(それにカボチャの種のオイルを好みでかけます)、そして生ハムとメロンなど。スープはオーストリアの伝統的なリンドズッペ(牛肉の固まりと根菜類などを煮込んだコンソメ味のスープ)など。

写真:リンドズッペ。2014年の旅行時には滞在先で材料をそろえ、自炊してみました。

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そしてメインは大抵肉料理ですが、付け合わせはいろいろです。代表的なのは茹でてからバターで炒めパセリをかけたじゃがいもでしょうか。お肉は牛・豚・鶏なんでも出てきますが、ソースもいろいろです。ジャムを添えることもあります。 また季節に応じてメインがキノコ料理ということもあります。(アイアーシュヴァンメル)
サラダも種類が豊富です。ザウアークラウト(酢キャベツ)はドイツ料理でも有名ですが、オーストリアで代表的なサラダは茹でてスライスしたジャガイモと細かく切ったタマネギをお酢と砂糖で味付けしパセリをかけたサラダです。他、スライスして塩で水分を出したキュウリ(日本の3倍くらいの大きさ)をサワークリーム(またはヨーグルト)とおろしたニンニクで味付けするサラダなど。
デザートでよく出てきたのは、アプフェルシュトゥルーデル(温かいアップルパイ)やパラチンケン(クレープのようなもの)です。
食に馴染めるかどうかは、留学生活を結構大きく左右します。食に対するストレスを抱えていると、本業のためのエネルギーに影響が出てしまうかもしれません。
量に関してはかなりボリュームがあり、日本人にはちょっと重たいメニューではありますが、ジャガイモを食べ過ぎなければとりあえず全品をクリア出来ます。 その土地の食を楽しむことはとても大事です。そこに生きる人間の心身にとって何よりの栄養ですから。
とはいえ私自身、留学中ずっと元気だったわけではありません。風邪をこじらせたり、胃のあたりが痛くなったりして食べられない、などいろいろありました。
まず風邪の時ですが、オーストリアの家庭では赤ワインを鍋にかけ、そこら辺にある柑橘類を切って一緒に煮込んだものを飲みます。クリスマス市(いち)の屋台で売ってるグリューワインのような感じの飲み物です。アルコールはだいぶんとんでいるはずでも結構酔いがまわり、ぐっすり寝てしまい起きたら熱が下がってすっきり治ってたということが何度もありました。(ただし風邪薬を飲んでからは危険なのでダメです)
胃痛の時は私の場合、なぜかルッコラ(ハーブの一種)だけはいくらでも食べられました。モッツァレラとトマトをスライスし、その上にルッコラをのせ、バルサミコで作ったドレッシングをかけるサラダにしばらくハマっていたことも。 夕食はそれだけという、今考えるとなんという食の細さ!という時期もありました。

その後~現在
日本に帰国してしばらくは地元のスーパーやコンビニに毎日通い、向こうで買えなかった食材やインスタント食品、お菓子の豊富さに改めて感動していました。
その後、「和食が基本」という主人との生活が始まり、毎日ごはんを炊くように。ここは日本、しかも魚の美味しい富山です。海のないオーストリアではなかなか新鮮なお刺身など食べられませんでした。魚だけでも嬉しいのに、お米もお味噌もここには美味しいものがあふれている!いつの間にかまた私自身も和食党になってしまいました。
それでもルッコラだけは何となく忘れられず、一度自分でプランター栽培してみたことがあります。しかし日当たりが良すぎたのか、間引きすれば良かったのか、あふれんばかりに育ちすぎ恐ろしいくらい苦味が強くなって失敗。結局は実家の庭に持っていき繁殖させたまま放置、食べるものはスーパーでたまに少量を買ってくるのみになりました。それも友人をランチに招く時や、みんなでピザを作るといった名目がある時のみです。
招く、といえば我が家はお客さん大歓迎の家です。 遊びに来てくれる友人は宝物なので、いつでもウエルカムです。学生の時からみんなでワイワイ賑やかに食事をするのが好きだったのは今も変わっていません。
そして最近のおもてなしは大抵ちらし寿司やお刺身が中心になってます。楽で美味しく、見栄えも良い(価格も手頃←重要)と・・・本当に北陸・富山は恵まれています。

所変われば食も変わる、私の場合はもうすっかり日本人らしい食生活に戻っています。

(2007年2月記)